昭和の時代と僕+

昭和の時代。僕のまわりで起こった些細な出来事を手当たり次第に綴った。

ぼっとん便所と僕

 我が家は田舎なので当然便所は和式のぼっとん便所である。ぼっとん便所とは便ツボ(肥溜め)が見える汲み取り式の便所である。時代的にも水洗トイレは普及していなかった。トイレットペーパーも勿論なくわら半紙風の固い鼻紙で、それを揉んで柔らかくして使用していた。少し前までは新聞紙を使っていた。

 僕は普段勉強はしないが、中学生の頃もの凄く勉強した。それも期末テストの一夜漬けの丸暗記である。テストが終わるとすっかり忘れてしまうが、それが唯一兄から学んだ勉強法だった。6つ年上の兄は学校ではトップの成績だった。この勉強法は高校まで継続することになる。僕は割と社会の歴史が好きだった。歴史は数少ない丸暗記に対応できる教科だからである。テスト前とテスト中の3~4日間の予定を組み、徹夜で各教科の丸暗記をした。

 その日は何故か日中から歴史の暗記をしていた。大便がしたくなり便所に入った。どうせなら便所の中でも勉強しようと思ったのが間違いだった。和式便所は長時間座ったままの体制でいると足が痺れて来る。体制を変えようとした弾みに手から歴史の教科書が便ツボの中に落ちてしまった。一瞬頭が真っ白になりおそろしく慌ててしまったが、気を取り戻し冷静になって落ちた教科書を拾い上げた。幸い水分の多いところではなく固形物の上に落ちたのでそれ程の被害はなかったが、教科書にお釣りがついていたので強い特有の臭いがした。水で洗い母親の香水を降り掛けたが、この臭いは香水などでは消すことができず歴史の教科が終るまで一緒に過ごすことになった。

 教科書に運がついたのかどうかわからないが、今回は学級で一番の良い成績だった。